愛犬・愛猫の命に関わる脾臓の腫瘍 |見逃しがちな症状とは
脾臓は、血液を作ったり、赤血球を貯蔵・破壊したり、免疫をサポートするなど、とても重要な役割を持つ最大のリンパ系器官です。
その中でも、脾臓腫瘍は脾臓にできる腫瘍で、最も多く見られる病気の一つです。
今回は犬と猫の脾臓腫瘍の原因や症状、治療法などについて詳しく解説します。
脾臓腫瘍の種類と症状
脾臓腫瘍には、身体の他の部分に転移して正常な組織を破壊する悪性腫瘍と、転移や浸潤をせずに周りの組織を押しのけるようにしてゆっくりと大きくなる良性腫瘍の二種類があります。
脾臓の良性腫瘍には血管腫、脂肪腫、骨髄脂肪腫などがあり、悪性腫瘍には犬で特に多い血管肉腫、骨肉腫、肥満細胞腫、線維肉腫などがあります。
特に犬に多く見られる血管肉腫は、犬の脾臓腫瘍の約80%を占めるとされています。
脾臓腫瘍の主な症状としては、悪性・良性どちらの場合も腹腔内出血や急性貧血、ショック症状があります。
通常、良性腫瘍では目立った症状は見られないことが多いですが、脾臓は血流が豊富なため、腫瘍が大きくなって破裂すると腹腔内出血を引き起こす可能性があります。
脾臓腫瘍が破裂して腹腔内出血を引き起こすケースはよく見られ、夜間救急の現場でもこのような状況が多くあります。
また、脾臓腫瘍が破裂して腹腔内に血が広がると腫瘍細胞が他の組織に拡散することもあり、これにより腫瘍の進行が早まることがあります。
飼い主様が見逃しがちな脾臓腫瘍の兆候
脾臓腫瘍は、腫瘍が破裂して腹腔内出血や急性貧血を引き起こすまで、ほとんど目立った症状が現れません。腫瘍が胃などの周囲の臓器を圧迫することで元気がなくなったり、食欲が落ちたりすることがありますが、多くの飼い主様はその兆候に気づかないことが多いです。
脾臓腫瘍は、症状から発見するのが難しいため、普段から半年〜1年に一度の健康診断を受けて病気を見逃さないことが大切です。
診断方法
脾臓腫瘍の診断は腹部超音波検査やX線検査、CT検査といった画像診断を用います。
これらの検査で、腫瘍の大きさや腹腔内出血の有無、転移の有無を確認できますが、腫瘍の種類や悪性・良性の判断はできません。
そのため確定診断と治療を兼ねて、外科手術で脾臓を摘出し、病理組織学的検査を行うことが一般的です。
手術前にエコーガイド下で腫瘍に針を刺して細胞を採取する細胞診検査もありますが、出血や腫瘍細胞の拡散を防ぐために、基本的には行いません。また、全身状態を確認し、血液中に腫瘍細胞が出現していないかを調べるために、血液検査も実施します。
治療方法
脾臓腫瘍の一般的な治療法は、良性・悪性に関わらず脾臓の摘出です。
脾臓の末端に小さな腫瘍が限局していて、脾臓を温存できる場合は部分的な切除を行うこともありますが、ほとんどの症例では脾臓全体を摘出する手術が行われます。
手術後は安静を保ち、激しい運動を避けるようにお願いしています。
「脾臓を摘出すると生きていけないのでは?」と心配される方もいらっしゃいますが、摘出後の脾臓の機能は肝臓や他のリンパ節が代わりに働くため、その後も問題なく生活することができます。
良性腫瘍の場合、脾臓を摘出した後の予後は非常に良好ですが、悪性腫瘍の場合は治療時点のステージや腫瘍の種類によって予後が異なります。
特に多い血管肉腫の場合、脾臓を摘出した後の生存期間の中央値は約1〜3ヶ月とされており、予後は厳しいと言えます。
予防法とご家庭での注意点
残念ながら、脾臓腫瘍を予防する方法はありません。そのため、定期的に健康診断やがん検診を受けて、病気の早期発見・早期治療を心掛けることが重要です。
また、毎日愛犬や愛猫の様子を注意深く観察し、少しでも異変を感じたらすぐに動物病院に連れていくことが大切です。
脾臓腫瘍は、腫瘍が破裂するまで特に目立った症状が見られないため、普段からの観察と定期的な健康チェックが欠かせません。
まとめ
脾臓腫瘍は特に犬に多く発生し、その中でも血管肉腫は予後が厳しい腫瘍の代表例です。
脾臓腫瘍は進行すると腹腔内出血など命に関わる深刻な状態を引き起こすことがあるため、日頃から定期的に健康診断やがん検診を受け、早期発見と早期治療を心掛けることが大切です。
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